嫁聴け
MAKE IT TRUE
TOKYO PERFORMANCE DOLL (1993)
アイドルはさじ加減で左右される偶然の産物。
東京パフォーマンスドール (以下 T.P.D.) は後に篠原涼子や市井由理 (EAST END+YURI) を排出したことで辛うじて一般の認知に至ったが、このアルバムがリリースされた当時は知る人ぞ知るアイドルファクトリーだった。一部マニアに熱狂的支持を受けたものの、レコードセールスに目立ったところはなく、音楽性に関してもアイドルの域を脱する事はなかった。その中で小室哲哉プロデュース作品の一つにこのアルバムがあることを知る者は多くない。 「TK プロデュース」 が固定ブランドとなる丁度 1 年前の作品であり、かといって特に突出した音楽的特徴が見られるわけではない※。にもかかわらず、このアルバムを知る身近な 6 人の被験者の内、その全てが口を揃えてこう言う。 「これは良いアルバムだ」 と。そしてその評価は未だに変わるところはない。
前提が間違いであるとも言える。 T.P.D.をアイドルとして括った時点で、音楽的な水準への期待を持たなかったからこそ、アルバムを聴いた際の意外性が増し、このような一致した感想を招いてしまったとも言える。かといって音楽としての高みにあるわけではない。テンポの速いダンス調の曲、ノンストップ、ユニゾンのボーカルライン。 1 曲 1 曲が突出した良さを持つでもなく、歌としての声もアイドル並み。むしろ平均水準を保つ最低ラインで作られている曲の 「なんとなく良い」 といった微妙な加減が、総合的に 「なんとなく気になってしまうアルバム」 「クセになってしまうアルバム」 を作ってしまった。トータルプロデュースの小室哲哉というブランドを念頭におき、それをあたかも神であるかのように扱うのであれば 「確信犯的なさじ加減でパッケージしてみせた」 と言え、またその微妙なさじ加減が結果として 「まぐれ」 とも言える偶然を作り出してしまったようにも思われる。いずれにせよ 「音楽」 としての完成度の高さは現れない。アイドルという存在その物が 「企画」 であるように、その一環としての音楽に過ぎない。
アイドルはあくまでも演じるための擬似的なフロントマンであり、作り手であるアーティストの、自らの作品を送り出すためのメディアとしてあると見なした際、このアルバム制作に携わる作家陣の多さは是非ともチェックしたい大きな要素である。 10 曲に対して 17 人のアーティスト。統一感を持たせることすら難しいと言える、見事なまでの統一感の欠如。にもかからわず、統一してしまった偶然とそこへ導いたさじ加減はもちろん、パッケージを作る上での確信犯的行為である。アルバムとしての配置を作る上でのパーツである個々の曲という、クライアントからの要求に対するアーティストの回答が一致してしまったことは、むしろそれほどにアーティストの作り出すレンジが狭かったともいえる。その狭い中に更に T.P.D. のキャラクタが合致したのならば、これもやはり強力な偶然のさじ加減とすることが出来よう。
第一線のアーティストを前面に出すでもなく、アイドルとしての人気や話題性に頼るでもなく。この点からもアイドルという媒体を利用し、かつ効果的な作用、すなわち意外性と偶然のパッケージとしての聞き手へのアピールを生んだ作品と見る事が、このアルバムを聴く上での一つの解法であろう。微妙なさじ加減が万人に共通するレシピであるならば、小室哲哉を前面に語ったとしても決して間違いではないが、それはあまりにも安直な逃げ方であると知ることも、セールスという頭数において拡大された聞き手には必要である。目隠し試聴にも似た状況でこのアルバムに接したなら、音楽のブランド志向は所詮安易なものでしかない事に気がつくことだろう。たとえ偶然の産物や黒子に支えられたものであっても、実演するのはフロントマンであり、 T.P.D. そのものがメンバーの個々を独立させたアイドルファクトリーであったことを知ったなら、アルバムの持つ意味やライナーに記載されたボーカルクレジットの意味をニヤリとしながら味わう事ができよう。
※ T.P.D. から独立した篠原涼子を 「篠原涼子 with t.komuro」 として、小室哲哉の名を前面に冠してリリースした作品 「恋しさと切なさと心強さと」 は 1994 年の年間シングルセールス 4 位を記録。総合売上 202.1 万枚。また同年 trf が 2 枚のシングル(「survival dAnce」 「boy Meets Girl」)を同じく年間セールスの 7 位と 9 位にランクさせている。 (データ:オリコン)