嫁聴け
GRAVITY
T-SQUARE (1998)
とにかく若い!
熱心なファンなら、すぐさま 91 年の作品 『NEW-S』 を思い出すことだろう。メロディラインを支えるサックス (EWI) 奏者が本田雅人に入れ替わり、若返ったメロディとエネルギーで満ちたあの名作を。 7 年間続いていたメンバーの安定は音楽の安定も導くと同時に、ここ 3 作ほど続いていた、マンネリズムともいえる変わり映えの無さを招いていたのもまた事実である。
結成 20 周年を迎えるにあたり、キーボートとサックスという T-SQUARE のメロディを作り出す両奏者、名コンポーザーの交代が行われた。リーダーの安藤まさひろ以上にバンドの顔だった二人を欠くことで、ファンは随分と戸惑い、新作に対する大きな期待と同時にそれを上回る不安を抱いたのである。そして届いた新生 T-SQUARE の新譜は。
若い!
繰り返すが、とにかく若い。ジャズ・フュージョン、一括してインストと呼ばれるこのジャンルは 「アダルト」 という言葉がよく似合う雰囲気にあり、楽器が歌うメロディがリードする音楽である。すると T-SQUARE のマンネリは、安藤まさひろによって書かれるメロディラインによるものであったのかもしれない。しかしこの最新作も 6 曲が安藤のペンによるものであり、その点ではまごう事なく T-SQUARE なのである。ではなぜこれほどに若返った印象が強いのだろうか。
オープニング曲からして明らかなのは、アレンジメントの変化である。今回プロデューサーとしてクレジットされたのは、新キーボーディストである難波正司(ただし)。 97 年を代表するミリオンヒットとなった河村隆一のシングル 『BEAT』 や 『Glass』 の編曲を担当しており、言うならば歌モノのヒットを知っている耳が今回の T-SQUARE を作り上げたことになる。そしてこのプロデューサーの手土産は 「ドラムループ」 と 「サンプリング」 であった。特に前者の多用は、これまでの T-SQUARE には見られない、より現代的な音のうねりを生み出す結果となった。
近年、様々なジャンルにおいて、打ち込みと生音の融合、とくにリズムセクションにおいて、このテクニックが利用され始めている。打ち込みのリズムが作る 16 分、場合によっては 32 分よりも細かく刻まれた、クールかつ正確なビートと、それに合わせるようにして叩き出す生ドラムの組み合わせによるうねりが、注目されるべき大きな変化であろう。この方法論は最近の歌モノのヒット曲にも広く利用されており、このことからもこれまでとは異なる音楽的アプローチを印象づける。
また、うねりはディスクのオーディオ特性にも現われている。深く掘り下げられたボトムがこれまでにない重心、重力感、すなわち GRAVITY を生み、同時に縦方向に音場を広げるべく層として薄く重ねあわせたシンセの和音により、高域が緩やかに包まれ、広く、かつ重い音質を確実なものとしている。曲が進むにつれてついついボリュームを上げてしまうハイエナジー感と、大胆なカットアウト、そしてノイジーなドラムンベース的手法 (PAT METHENY GROUP の最新作 「Imaginary Day」 にも用いられていた) といったものが、音質における変化と同様、違和感なく音の風景として埋め込まれ、まったくもって新しい T-SQUARE のサウンドを形にしたのである。
逆に、この目立った変化が気になる人には辛いかもしれない。「メロディアスな T-SQUARE」 という意味での魅力は、ややすると影を潜めたように思われる。本田雅人に代わってフロントマンとなった宮崎隆睦 (たかひろ) の演奏者としての個性が、その 「吹けてる」 音にもかかわらず薄く感じられるのも、この辺りに起因しているといえよう。また、バンドアンサンブルを重視するような曲が、周囲の新しさに圧されて浮き上がってしまう点も気になった。
しかしこの新しいアレンジに触発されたのか、ドラムとベースの屋台骨が、前進して行くグルーブを作り出していることからも、これまでに見ることの出来なかった平方の断面を提示するアルバムとしてのパッケージを完成させたのだといえる。固定メンバーによる熟成の副作用としての、自らの首を絞めかねない音楽的な囲い込み状態を見事に打ち破ったという点で、間口を広げることにつながる音作りは高く評価されるべきであろう。
同時に興味深いのは、作曲者としての既存メンバーの個性である。今回収録されている中で最もオープンエアな、これまでの T-SQUARE らしいメロディを残している M-3 がベーシストの須藤満によるものであり、対照的にうっそうとした深さ、怜悧な湿度を引き出している M-9 はドラムスの則竹裕之によるものである。これまでの梁であった和泉+本田の両コンポーザーを失い、演奏素材としての曲に対して控えめであったこの二人の色が発揮されたことも、今後の展開をより楽しみにさせるパーツの一つである。残念ながら新加入の二人による曲は今回は収録されていない。
新生 T-SQUARE の 『NEW-S』 が本田雅人を軸にした、メロディとエネルギーのアルバムであったならば、新々生ともいえる T-SQUARE のこの作品は難波正司を軸にした、リズムとアレンジのアルバムといえよう。 7 年ぶりの「新しい T-SQUARE」は、ヘビーローテーションの一枚となるだろう。 FM から流れるコンテンポラリーダンスに気がつくと魅了されているように、そしてより親しみある音楽として触れていたいがために。