2003年10月06日

SACD で聴く (木下伸市 / ピンクフロイド)

先週末は、伊勢丹で赤白一本ずつのワインを買って、古くからの友人宅へ乗り込んだ。主な目的は友人お勧めのワインと SACD 。

以前にもこのシステムで、 『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』 の DVD-Audio 盤と、平井堅 『gaining through losing』 の SACD 盤を聞かせてもらったことがある。 『ブエナ・ビスタ…』 ではオーディオというメカニカルなものだというのに、体中にネットリとまとわりつく湿気をおぼえ、 『gaining through losing』 では、CD 盤にはない重心の低さとワイドネスが発生して、金がかったヒット作品としてではなく、鑑賞用の音楽としての価値が上がるのを感じた。特に生音を多用した曲での CD との違いは感動的。

今回は僕が所有している 2 枚のハイブリッド盤、 PINK FLOYD の 『Dark Side of the Moon』 と、木下伸市 (津軽三味線) の 『承』 を持ち込んでの試聴会となった…けど、聴き始めた時点で、すでにワインは 1 本空いていたような。

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木下伸市 "承"
CD では、細やかに弾いた時の音を聴きたいがためにボリュームを上げていくと、アタックした瞬間のバチの音が刺激的なものとして聞こえてしまい、すぐに耳が疲れてしまうという問題があった。僕のシステムでも友人のこのシステムでも、この点に違いはなかった。

SACD では、それまでは細い棒でスピーカーのコーン紙を突ついているようなアタックだったものが、より太い棒でダイナミックに突かれているような印象を受けた。瞬時に織り込まれる pp と f の差をバランスよく拾い、残響音として空中に残っている音も、打ち消されることなく出てきたばかりの音と混じり合う。また、音が点源としてリアルに見えるために、奏者の肉体的な動きまでをも把握することができる。スピード感が特別に増したようには感じられなかったが、音が舞っている空間を雰囲気として楽しむ分には、 SACD に圧倒的なアドバンテージがあった。

(なお CD は、 YAMAHA のオーディオマスターで録音した CD-R との比較)

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PINK FLOYD "Dark Side of the Moon"
5.1ch はある種のギミックなのでは? とも思っていたが、耳を軸とした平面上における全方向から音が発生することによって、部屋全体をホールとして利用しているような深みが発生した。この深さを 2ch で表現するのは相当に難しいはず。作品の持つ 「かっこよさ」 にあてられて、アルコールもどんどん進む。

とにかく、オーディオにおける 5.1ch は、 2ch とは根本的に異なる次元として語られるべきだと実感。 『ブエナ・ビスタ…』 を聴いたときに感じられた濃厚さが、より具体的なものとしてとらえられた。従来のオーディオシステムにおいて、よりリアルな音に近づけようと奮闘させられた努力は、あっさりと瓦解させられるかもしれない。空間を利用する考え方が別物なのだから。頭をうまく切り換えた方が、幸せに近づけるのかもしれない。また、空間を有効に生かすことで、いわゆるアナログ臭さの美味しい部分が引き出されたようにも思われる。

スピーカーが作る円形の範囲外にテーブルが置いてあったのだが、そこに座って飲んでいても、音に包まれている部屋の空気を実感することができた。

5.1ch に触れてしまうと、これまでの 2ch での再生は、音と向き合う、もしくは音に主張されたものだったのではないかという気までしてきた。新しいオーディオフォーマットにおける 5.1ch 再生は、音が人の域にまで降りてきて、人との距離を縮めているようにも感じられる。もちろん 5.1ch を再生できるシステムであるにこしたことはないけれども、 2ch でも CD との圧倒的な違いは体感可能だ。プレイヤーの値段が大幅に身近になってきたことからも、自分の好きなジャンルによっては、ぼちぼち買い時に突入しているのかもしれない。

でもこんな時に限って自由になるお金がないのは、もう常としかいいようがないもので。2日酔いとともに、ため息一つ、また一つ。

cf.
木下伸市 "承" P:2003 SACD / CCCD Hybrid
PINK FLOYD "Dark Side of the Moon" P:1973 / 2003 SACD / CD Hybrid

平井堅 "gaining through losing" P:2001 SACD
Ry Cooder "Buena Vista Social Club" P:1997 / 2001 DVD-Audio